論文賞

Paper Award

論文賞 

信号処理学会では毎年、過去3年分の論文から優秀な論文を数編選定して表彰しています。受賞論文の記事は、毎年、5月号に掲載されます。論文の推薦は9月に受け付けています。(詳しくは「信号処理学会論文賞規程」をご覧ください。)

受賞論文一覧 

第9回信号処理学会論文賞(2015年)

Gonzalez-Carabarin Lizeth, Tetsuya Asai and Masato Motomura
Impact of Noise on Spike Transmission through Serially Connected Electrical FitzHugh-Nagumo Circuits with Subthreshold and Suprathreshold Interconductances
Vol.16, No.6, pp.503-509, November 2012

    (受賞理由)ニューロンにおけるスパイク信号伝達の際の雑音の役割について,FitzHugh-Nagumo 回路に基づく解析を行い,発火閾値付近の弱信号の伝搬が,雑音によって促進されることをシミュレーションによって明らかにしている。さらに,不要なスパイクの伝達抑制にも効果があることを示している。


Hitoshi Takata, Tomohiro Hachino, Yoshiomi Hino, Kazutomo Yunokuchi, Hiromi Miyajima and Kazuo Komatsu
Augmented Automatic Choosing Control of Modified Filter Type for Nonlinear Noisy Measurement Systems
Vol.16, No.6, pp.563-569, November 2012

    (受賞理由)非線形フィードバック制御システムの解析・設計において,システムをいくつかのサブシステムに分離した上で線形近似する手法を開発している。システムの観測値に雑音を考慮した実用的なものとなっており,電力系統の安定性向上に有効であることを示している。


Pranab Kumar Dhar and Tetsuya Shimamura
A DWT-DCT-Based Audio Watermarking Method Using Singular Value Decomposition and Quantization
Vol.17, No.3, pp.69-79, May 2013

    (受賞理由)離散ウェーブレット変換から得られる離散コサイン変換係数の特異値のうち,最大のものに電子透かしの情報を埋め込む音響信号の新しい電子透かし方式を提案している。従来方法と比較したとき,提案方法は電子透かしが知覚に与える影響やデータの増加に対してすぐれた特性を有することを示している。


第8回信号処理学会論文賞(2014年)

Prapong Prechaprapranwoong, Kenji Nakayama, and Akihiko Hirano
Common spatial pattern with error-correcting output code and preprocessing on neural-network-based brain-computer interface
Vol.15, No.2, pp.133-144, September 2011

    脳の活動と外界とをつなぐBrain-computer interfaceとして、脳波図を用いた識別の新しい手法を提案している。この手法は、フーリエ変換に基づくが、空間フィルタによる処理と複数の2値判定を組み合わせること等により、従来手法と比べ、大幅な正解率との向上と誤り率の低下を達成している。


Jia Su and Takeshi Ikenaga
Adaptive-motion-detector-based skip-mode predecision in motion estimation for video surveillance
Vol.16, No.1, pp.67-78, January 2012

    大規模映像監視システムでは、計算負荷による消費電力の増大が問題となっている。これを解決するために、動き部分のブロック抽出と動き予測における読み飛ばし手法を開発している。室内、屋外の監視データに対して実験を行い、従来手法と比べ、性能の低下なしに、大幅な処理時間の短縮が得られることを実証している。


Takeshi Kumaki, Yuma Murakami, Shuhei Itaya, Kei Nakao, Takeshi Orura, and Takeshi Fujino
Max-plus algebra-based morphological wavelet transform watermarking for highly-parallel processing with mobile embedded processor
Vol.16, No.6, pp.547-556, November 2012

    モバイル環境でのWatermarking手法として、Max-plus algebra-based morphological wavelet transformを提案している。モバイル環境では実時間性が重要であるが、提案手法は、これを、複素演算を回避することなどで達成している。圧縮画像の処理に適したものとなっており、従来手法と比較して大幅な処理時間短縮を実現している。


第7回信号処理学会論文賞(2013年)

Daisuke Saito, Nobuaki Minemastu, and Keikichi Hirose
Rotational Properties of Vocal Tract Length Differences in Cepstral Space
Vol.15, No.5, pp.363-374, September 2011

    音声認識の話者正規化や音声合成の話者変換を行う上で、声道長が音響パラメータにどの様な影響を与えるかを明らかにすることは重要な課題である。音声処理で一般的に用いられているケプストラムに与える声道長の影響を調べ、変換行列が強い回転性を示した上で、固有値に着目し、その性質を明確にしている。


Atanu Saha and Tetsuya Shimamura
Speech Enhancement by Incorporating Speech Presence Probability Based on SNR Discrepancy
Vol.16, No.1, pp.57-65, January 2012

    音声強調に置いて、強調後の音声の品質が問題となっている。これを解決するものとして、音声存在確率に基づく手法が注目されているが、様々な雑音を考慮した実環境下では、思った様な性能が発揮できないことが多い。これに対し、音声不存在確率に着目して音声存在確率を推定する手法を開発し、その有効性を、種々の雑音について実験的に実証している。


第6回信号処理学会論文賞(2012年)

Kui-Ting Chen, Hui Zhu, Syahrulanuar Ngah and Takaaki Baba
Hardware Architecture of Particle Swarm Optimization for Positioning Systems
Vol.13, No.6, pp.497-506, November 2009

    位置決定システムのための粒子群最適化手法のハード化を行い、高速化と低価格化を達成している。計算手法等に工夫を凝らしたアーキテクチャーをfield-programmable gate arrayに実装することで、ソフトウエアの実装と比較して887倍もの高速化を達成しており、粒子群最適化手法一般に対する貢献も大きい。


Yasuhiro Kosugi and Keikichi Hirose
A System for Detecting Extraordinary Sounds from Transformers in Electric Power Facility Surveillance
Vol.14, No.5, pp.387-396, September 2010

    変電所の故障診断を音響信号の解析から自動的に行う手法を開発している。環境雑音、反射などがある実環境下で、2マイクロフォンへの入力から、通常音抑圧、音源推定などにより、変圧器から出る異常音を検出することを行い、その有効性と限界を実験的に示している。信号処理技術の新しい応用を開発したものとして評価される。


Shinobu Kudoh, Takayuki Nakachi and Nozomu Hamada
Fast and Enhanced Super Resolution for DCT-Compressed Images
Vol.14, No.6, pp.451-458, November 2010

    複数の低解像度の画像を基に高解像度画像を得るSuper Resolution技術の新しい手法を開発している。従来の手法が、非圧縮画像を対象とし、かつ計算時間がかかっていたのに対し、低解像度画像の統合など、含まれる問題を個別に取り扱うことにより、DCTで圧縮された画像から、短時間で高解像度画像を得ることを達成しており、画像処理に大きく貢献するものとして評価される。


第5回信号処理学会論文賞(2011年)

Mohd Shamian Zainal, Shingo Yoshizawa and Yoshikazu Miyanaga
Ultralow Power and Large-Scale Design of Subthreshold Digital Circuits for Wireless Communication Systems
Vol.13, No.6, pp.487-496, November 2009

    無線通信システムでは、CMOSをSub-threshold領域で動作させ、極低電力で利用することが行われる。LSI設計のためには、そのような動作状態のCMOSの時間遅れや電力消費についての、解析が必要であるが、本論文では、通常動作からSub-threshold領域動作への写像に基づく解析手法を新しく開発している。実際に直交波周波数分割多重変調方式において評価を行い、低電圧はSub-threshold領域でのLSI動作の障害とならないことを明確にするなど、無線通信技術の発展に大きく貢献するものである。


Tadahiro Oyama, Stephen Karungaru, Satoru Tsuge, Yasue Mitsukura and Minoru Fukumi
Fast Approximate Incremental Learning Algorithm Based on Simple-FLDA
Vol.13, No.6, pp.515-523, November 2009

    逆行列計算を不要とすることによって計算高速性を実現するSimple-FLDA (Fisher Linear Discriminant analysis)において、漸近的な学習を実現するIncremental Simple-FLDAを開発している。この手法は、固有ベクトルを高速計算することが可能であり、学習データの増加に伴い、効率的な識別(パターン認識)を達成することが出来る。実際に、パターン認識で標準的に用いられるUCIデータ(Iris Data)の他、EMGデータ、顔データ などで、識別精度と計算時間の観点からの有用性を示しており、パターン認識に貢献するものとして評価される。


第4回信号処理学会論文賞(2010年)

章忠、戸田浩
シフト不変な複素数離散ウエーブレット変換
Vol.11, No.5, pp.387-400, pp.401-412, pp.413-424

    離散ウエーブレット変換の弱点として、信号のわずかなシフト変動により結果が影響を受けることがあげられる。複素数離散ウエーブレット変換は、これを解決するものであるが、その理論的な裏付けが不十分で、性能の十分な発揮が困難であった。本論文は、これに対する回答を与えるもので、離散ウエーブレット変換の技術の拡大に大きく貢献するものである。


H. Aomori, S. Yamashita, T. Otake, N. Takahashi and M. Tanaka
Lossless Parallel Image Coding Based on Lifting Scheme Using Discrete-Time Cellular Neural Network Having Multi-Templates
Vol.12, No.1, pp.55-64

    Liftingに基づく損失のない並列画像符号化に、離散Cellular Neural Networkを用いることを行っている。Multi-templateを用意することにより、Edgeを考慮した処理を効率的に行うことが可能となる。演算時間の短縮など提案手法の有効性を実験により実際に確認している。新規性、実効性の高い手法を提案している点が評価される。


第3回信号処理学会論文賞(2009年)

Thang Tat Vu, Kenji Kimura, Masashi Unoki and Masato Akagi
A Study on Restoration of Bone-Conducted Speech with MTF-based and LP-Based Models
Vol.10, No.6, pp.407-417

    骨導音声を音声コミュニケーションに用いることを提案し、MTFに基づいた線形予測モデルにより、骨導音声から通常の音声を生成する新しい手法を開発している。応用の観点から高い新規性を有し、聴覚障害者、高雑音下といった条件下での音声コミュニケーションの実現が期待される。


Sadi Vural and Hironori Yamauchi
Real-Time Face Detection and Tracking Using Six Segment Filters
Vol.11, No.1, pp.83-91

    動きのあるビデオ画像から実時間で人間の顔を検出し、追跡する手法を開発している。Haar-like特徴を用いたBoostingにより顔を検出した上で、SVMにより目の位置を同定するものである。98%の精度を達成している。きちんとした実証実験がされている点が大きく評価される。


第2回信号処理学会論文賞(2008年)

Ling Wang, Jianming Lu, Yeqiu Li, Takahide Okamoto and Takashi Yahagi
Noise reduction in medical X-ray image using wavelet based on image characteristics
Vol.9, No.1, pp.519-530

    X線等の医療画像雑音除去手法として、ウェーブレット分解と閾値処理に基づく新しい手法を提案し、その有効性を実データに対して示した論文である。メジアンフィルタを用いた手法を開発するなどして医療画像で問題となるショット性雑音にも有効としているなど、新規性が高く、優れた手法である。


Masashi Ohta, Kiyotoshi Matsuoka and Toshiharu Mukai
Blind separation method with mixture model of probability densities for convolutively mixed sources
Vol.19, No.1, pp.59-69

    畳み込み混合した音源のブラインド分離手法として、信号の統計的性質を用いる新しい手法を開発し、計算機シミュレーションと実環境下での音声信号についてその有効性を実証している。きちんとした論理構成の優れた論文である。


第1回信号処理学会論文賞(2007年)

Nobuko Ikawa, Takashi Yahagi and Huiqin Jiang
Waveform Analysis Based on Latency-Frequency Characteristics of Auditory Brainstem Response Using Wavelet Transform
Vol.9, No.6, pp.505-518

    聴性誘発反応脳波信号処理の新しいシステムを開発し、その有効性を実データに対して示した論文である。従来システムと比較し、格段の処理時間の短縮を達成した。新規性が高く、当該分野の研究とともに、現場の医療に対しても、大きな波及効果が見込まれる、優れた手法である。


Md. Khademul Islam Molla, Keikichi Hirose and Nobuaki Minematsu
Separation of Speech and Interfering Audio Signal from Single Mixture by Subspace Decomposition
Vol.9, No.6, pp.487-495

    2音源が混合した信号に対する音源分離の新しい手法を開発し、その有効性を、実験的に実証した論文である。スペクトルから独立な構成要素を求め、それらを個々の音源に割り当てるものであるが、データの特徴に適応した処理を行うなど、高い独自性を有する、優れた手法である。


Md. Imamul Hassan Bhuiyan, Md. Kamrul Hasan, Nait Charif Hammadi and Takashi Yahagi
Image Compression with Neural Networks Using Dynamical Construction Algorithm
Vol.5, No.6, pp.445-454

    NNに基づく静止画像の新しい信号圧縮手法として、モジュール化し、画像の各部に最適なモジュールを対応させる事で効果的な圧縮を達成している。Wavelet変換に基づく当てはめの手法等も開発している。効果が実験によって明確に示された、優れた論文である。


Yoshio Konno, Jianting Cao, Tsunehiro Takeda, Hiroshi Endo, Takayuki Arai and Mamoru Tanaka
Evaluation of Brain Source Separation for MEG Data Applying JADE, Fast-ICA and Natural Gradient-Based Algorithm with Robust Pre-Whitening Technique
Vol.8, No.6, pp.461-472

    MEGデータを解析し、脳の活動部位を特定することを、ICAによって行い、その効果の詳細な実験的検討をしている。EMGの平均操作の回数によって、ICAによる信号源分離(活動部位の特定)の性能がどのように変化するかを調べ、ICAの有効性を実証した、優れた論文である。


信号処理学会論文賞規程 

2015年4月1日改訂

  1. 信号処理学会論文賞は,会誌 Journal of Signal Processing に掲載された論文から,特に優秀なものを論文賞選考委員会で選考し,授与する。
  2. 論文賞の対象となる候補論文は,信号処理学会員であれば誰でも推薦することが出来る。ただし,候補論文の著者には,少なくとも 1 名の信号処理学会員が含まれていることが必要であり,論文著者(会員)による自己推薦も受け付ける。
  3. 論文賞候補論文を推薦する場合には
     (a)論文の著者,題名,巻,号,ページ,掲載年
     (b)1000 字以内(日本語の場合)または 600 語以内(英語の場合)の推薦文
     (c)推薦者の氏名,所属,連絡先(E-mail アドレスを含む)
    の含まれている書類(PDF ファイル)をそろえ,「論文賞推薦書」と 明記して電子メールで下記の信号処理学会事務局あてに送付する。 なお,書類の様式については特に定めない。
  4. 論文賞候補論文推薦の受付期間は,毎年 9 月 1 日から9月 30 日までとする。
  5. 論文賞の対象となる候補資格論文は,推薦時より 3 年前の 5 月号からその年の 3 月号までに掲載された過去 3 年間にわたる論文とする。
  6. 論文賞候補論文として推薦できる論文は,信号処理学会員 1 名につき各年度で 1 編を限度とする。なお,状況に応じて,論文賞選考委員長は論文賞候補論文を追加推薦することが出来る。推薦されたすべての論文を論文賞候補論文として選考委員会に諮り,選考委員長が論文賞授賞論文を決定する。
  7. 複数の著者がいる場合には,共著者を含めた全員を表彰の対象とする。
  8. 同一著者が継続して受賞することは可能であるとする。
  9. 論文賞授賞論文の中で,特に優れていると認められた論文に対して,特別賞を授与する(名称:谷萩隆嗣記念特別賞)。この特別賞は,谷萩隆嗣・会長からの寄付金による基金を利用して設けられたものである。
  10. 論文賞授賞論文および特別賞授賞論文については,会誌 Journal of Signal Processing の誌上で公表する。
  11. 規程の一部を変更する場合には,変更後の新しい規程をあらかじめ会誌 Journal of Signal Processing に掲載し,その後に推薦募集を行う。
  12. 論文賞候補論文の推薦書は,以下の事務局あてに送付する。
  13.       信号処理学会事務局
          〒113-0022 東京都文京区千駄木 5-19-10
           TEL/FAX:03-5809-0504
           E-mail:office@risp.jp
           http://www.risp.jp/
付則 本規程の発効日は 2006 年 4 月 1 日とする。